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Gokutsubushi's Blog

【映画】『怒り』最高にやるせない。表象不可能性に挑んだ作品

ものすごい映画だった。
先月観た『日本で一番悪い奴ら』がその時点で今年一番だったと言ったが、『怒り』が同率一位で並んだ。鑑賞した後の圧倒的な余韻に関しては他の作品と比べ物にならない。

やるせない。
これに尽きる。
『怒り』というタイトルから、なにか明確で比較的簡単な形をとった恨みつらみが原因となって殺人事件が起きるサスペンスと思って観ていたが、いい意味で予想を裏切られた。

本作は何人もの登場人物とその怒りを取り扱うが、そのなかに一つとしてわかりやすい怒りなどない。
勧善懲悪でもなく、ピカレスクロマンでもなく。ひたすらやるせない。遣る瀬のない、行き場のない、どう扱えばいいのかわからない怒り。見ているこちらも、ひたすらやるせない。

本物の怒りは、言葉にできない。
表象不可能というらしい。戦争、貧困、暴力、災害など、真に圧倒的な事象は記号でその意味を書き表すことが不可能である。
表象不可能な事象はいかにして表象するべきか?
表象不可能なものがそこにある、という形で伝えるしかない。表象不可能なその実在そのものは決して言葉で伝達され得ないが、言葉を受け取る側の人は、その言葉を発する背景に壮絶すぎて自分には伝わってこない恐ろしいなにかがあるのだと直感的に感じることができる。
本作は表象不可能な「怒り」を映画を観るものに確かに伝えた。少なくとも僕には伝わった。久々に涙が出た。

幕が下りた後も客がみな何を言えばいいのか、この映画をどう理解すればいいのかわからずに打ちのめされながら歩き、館内は静かなものだった。
僕もそうだった。いつも映画が終わった瞬間は言いたいことが溢れて、隣りの友人にまくし立てるのが習いなのに、今日は外に出るまで一言も交わさなかった。
こんなことは初めてだ。

現代日本の不条理、怒り。ぜひ観てほしい。衝撃的だった。