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ごくつぶしぶろぐ!

Gokutsubushi's Blog

『シン・ゴジラ』ゴジラは何の比喩だったのか?

シン・ゴジラ』鑑賞。

確認しておくと、ゴジラはビキニショックによって生まれた原子力の怪獣であり、自然災害のメタファーであると同時に放射能という人的災害の表象でもある。戦後日本の文化にゴジラという怪獣がここまで深く根付いたのは単純にキャラクターが立っているというだけではなく、その圧倒的なパワーが現実の核兵器原子力という"power"の比喩になっているからだ。ゴジラが街を壊すとき、観客はゴジラを生んだ水爆実験がこの破壊を間接的に引き起こしていることを意識させられる。だから引き込まれる。


そして、ここからネタバレになるが、

今回の『シン・ゴジラ』はもはや日本という国家にとっての脅威の比喩そのものという役割になっていた。本作のゴジラはあらゆる天災・人災・外敵のメタファーとして映画を観ることが可能。

比喩①天災
3.11の震災。
大規模な地震が発生し、津波が沿岸地域に押し寄せる(ゴジラが海から現れて上陸してくる)。被害地域に大きな傷跡(ゴジラ通過後の瓦礫の山)。規模があまりに大きいため行政が混乱。各国の支援(仏独の協力)や米軍のトモダチ作戦(石原さとみの協力)。
本作では東北ではなく首都東京が被害に遭うという形で観客=日本国民の当事者意識を揺さぶる。

本作では最後にヤシマ作戦の亜種みたいな作戦で「日本人の底力」的なものが示され、「日本は焼け野原から復興したんだ、スクラップ&ビルドできるさ」と非常に陳腐な「がんばろう日本!」論で幕を閉じる。俺自身そういうの好きだし感動もしたが、3.11以後の言説としてはあまりに浅はかだと思う。エンタメ的。

比喩②人災
3.11の福島第一原発事故
原子力発電所津波に浸水、電源を喪失したためコントロールを失い、メルトダウンからの放射能漏れ(人間の出した核廃棄物によりゴジラが生まれ、放射能を撒き散らす)。決死隊が結成され、命を賭した冷却作業が敢行される。その後も事故は収束していない(ゴジラ放射能とともに生きねばならない)。
これも東京のために発電していた福島のかわりに東京が汚染されるという構図になっていて、東京都民や政治家たちが当事者になる。地方/辺境を構造的に抑圧していた首都/中央を告発している。

本作だとゴジラ原子力というか科学そのものみたいな意味を持っていて、大きな被害も出したけどなんとか頑張って克服(冷却)したら収穫もあった。科学自体は良くも悪くもない、人間次第だ、という感じ。「ゴジラと生きていくしかない」は「汚染と生きていくしかない」の意味と取れるが、「脱原発に舵を切るのではなくコントロールしていこう」とも取れる。

比喩③外敵
仮想敵国の武力攻撃。これはまだ起こっていない事態だけど、3.11が日本には非常事態への備えがないことを強く意識させた。
例えば北朝鮮やISISなど海外から攻撃を受けるも「想定外」なので法整備がされておらず対処できない(東京湾内のゴジラを前例がないために海上自衛隊で処理できなかった)。というかそもそもそんな攻撃の可能性を想像できない(主人公が具申したゴジラの存在可能性を考えようとしない)。自衛隊を出動させても交戦権がないのであくまで軍事行動としてではなく国内法で対応する(民間人が残っているから攻撃できないなどの馬鹿らしい問題が起こる)。意思決定もアホほど面倒で遅い(いちいち首相が電話で何人も挟まないと指示が出せない)。結果手遅れになり被害が増大。いずれこうなるかもしれないので安保法制を整備せねばならない(ゴジラ上陸後の非常事態宣言)。

これは少し穿った解釈だけど明らかに庵野秀明は本作で日本の安全保障を問題にしている。現状では日本は不測の事態に対応できない上に、安保で頼る米国は実のところ日本を守るつもりなどない(ゴジラ大量破壊兵器を破壊するために米国が国連多国籍軍の体裁を取って内政干渉するというのは明らかにイラク戦争のこと)のだから、日本の安全保障をしっかり整備しろと言っている。

主人公たち政府のエリートが必死にゴジラ対策を検討しているときに、官邸の外では市民団体らしき集団がデモを行っているというシーンがあった。明らかに安保法制に抗議するSEALsを揶揄した描写だろう。政府の人たちはこんなに国のために頑張っているのに、何もわからないアホが左巻きな論調でむやみに政治をかき回している、という感じ。あれが庵野秀明の認識なのだろうか。



追記
シン・ゴジラ』を観て原発事故に興味を持ったのならぜひ見て欲しい。

NHKスペシャル 原発メルトダウン 危機の88時間
原発メルトダウン 危機の88時間 - YouTube

これこそが『シン・ゴジラ』というフィクションの基になるノンフィクションだと思う。ゴジラで感動したのならこちらもぜひ見て欲しい。別に東電が好きなわけじゃないけれど。本当にこういう作業をしている人がいるんだと。総理はこのドキュメンタリーでは吉田所長だ。