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Gokutsubushi's Blog

家庭教師

6歳年上の日本人留学生に教えを請われ、中国語文法をすこしだけ教えた。
まだまだ勉強中の僕なんかに教える資格はないと思い恐縮したが、結果的にはやってよかったと思う。貴重な体験になった。

相手を机の前に座らせ、僕はベッドに腰掛けて横から口を出すという典型的な家庭教師のスタイルをとった。ちなみに場所は彼の部屋。向こうのベッドには彼のルームメイトのタイ人が寝ている。
雑談もそこそこに家庭教師を始める。僕は当然と思って「これは副詞です」「これが目的語ですね」というふうな言葉遣いでもってして文法講義を始めた。僕は大学二年のとき塾で中学生に英語を教えていたので、義務教育を終えた大人相手でしかも一対一の授業ならば、中国語の基礎文法など楽に理解させる自信があった。解説しながら軽口を叩く。大丈夫、中国語の文法なんて簡単ですよ。英語と同じようなもんですからね。

彼は少しの間黙って僕の話を聞いていたが、しばらくすると申し訳なさそうに「ごめんね、俺ほんとに勉強したことないから、小学生に教えるつもりでやってくれないか」と自嘲気味に笑った。僕がその言の意図を測りかねていると、彼はちょっとうつむいて「副詞ってなに?」と言った。なるほど、そういうことか。

結局その日は具体的な文法はほとんど教えずに終わった。
そのかわり英語にも日本語にも中国語にも通用する文法という概念の基礎部分を時間をかけて丁寧に伝えた。
彼は授業中に先生が使うSだとかVだとかOという用語をぜんぜん知らなくて、そのせいでかなり苦しんでいたらしい。
だからそのへんを全部教えた。適当に流さず、主語とは何か、何が主語になれるのか、主語は文のなかのどの位置に来るのか…基礎的な部分で必要と思われるルールを思いつくだけ教えた。主語、述語、目的語、名詞、動詞、形容詞、副詞…その日は用語の定義をひととおり教えるだけでかなり時間がかかった。
遠回りだが、彼の今後の学習(中国語だけでなく他の言語も)を考えるとこうするのが一番早いし実になるはずだ。

かなり遠回りな教え方をしているにも関わらず、彼は嫌にならずにちゃんとついてきてくれた。おかげで最後に語順について少し練習問題をやってもらったときには、かなり文型というものを意識してくれるようになっていた。
彼自身手応えを感じたらしく、教え方が上手いと僕のことを褒めてくれた。本当にそう思っているのか、半ばわかったようなわかってないような感じでとにかく感謝を述べていたのかはわからないが、少しでも達成感を持ってくれたなら僕も嬉しい。

家庭教師を引き受けてよかった。
ここ3年ほど大学の奴らとばっかり接してきて、多少頭が硬くなっていたかもしれない。そうだよな、学校の勉強なんてあんまり聞いてないのが普通だ。僕だってたとえば数学なんか全くわからない。いきなり微分とか積分とか当然のように言われたら困惑してしまうと思う。

バカの壁は誰にでもある。僕はたまたま塾講師をやる程度には英文法や中国語文法を知っていたが、知らないことは山ほどある。タレントやファッション、スポーツなんかの話題を飲み会で出されて、何も言えずに沈黙して女子に嘲笑されることは決して少なくない。
そんなとき居てほしいのは「そんなことも知らないの?」と言う人ではなく、「こんな大事なことを知らないなら教えてやる」と発想する人だ。
本当にその話題が好きな人、考えを持っている人ならば知らない人に対してゼロから語ってくれる。僕はこういう人が好きだし、こういう人になりたいと思う。

自分が当たり前と思っているラインを他人にも無意識に強いるのはやめよう。

理論や用語ってのはファミコンの裏ワザみたいなもの。教えてもらえばこりゃ便利、使いやすくて嬉しくて仕方ない。知らない人がいれば教えてあげればいい。