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Gokutsubushi's Blog

筒井哲也の新連載『有害都市』の背景―有害図書の烙印

いま海外で非常に高く評価されている社会派漫画家の筒井哲也が、「となりのヤングジャンプ」で『有害都市』を連載しています。「となりのヤングジャンプ」は「裏サンデー」等と同じく購読無料のウェブ漫画雑誌なので、よかったらサイトに行って読んでみてください。

 


となりのヤングジャンプ : 有害都市

 

さて筒井哲也ですが、僕は彼の漫画が大好きです。『マンホール』『ダズハント』など既刊はあらかた読んでいますが、特に『予告犯』が素晴らしい。傑作と思います。全3巻ですので、興味があればぜひ。

 

予告犯 1 (ヤングジャンプコミックス)

予告犯 1 (ヤングジャンプコミックス)

 

 

僕の思う筒井哲也作品の持ち味は、作画・ストーリー両方の持つリアリティです。絵が写実的だから作品世界に現実感をもって没入できるし、ストーリーも非常によく練られていて引き込まれる。とにかくリアルなんですね。そんなリアルな世界を舞台にホラーやサスペンスが展開されるわけだから、読者は我が事のように戦慄する。

つまり筒井哲也は、リアリティをもって非現実を描くことで、読者の現実に対する認識だとか価値観を動揺させてくれる漫画家なんです。そしてこれって、やっていることはSFなんです。現実の「いま・ここ」にないものを、相応のリアリティをもって描く。それに触れた読者はセンス・オブ・ワンダーを刺激され、視野や発想を広げる。

 

そういう認識を踏まえて新連載の『有害都市』を見ると、やっぱり読者の価値観を揺らしに来ている。作品のテーマは「表現の自由」のようです。

 

主人公は漫画家の青年。青年誌に食人表現を含むホラー漫画を連載し始めるのですが、日本社会は2019年に可決された「有害図書類指定制度に関する新法案(健全図書法)」によって、過激な表現への風当たりが強まっていた。主人公の漫画も、発言力のある「有識者」によってその表現を問題視されてしまいます。エロやグロに対する過度な規制が、表現の自由を侵害する。ざっくり言うとこういうテーマです。

 

この『有害都市』はなかなか苛烈な作品です。何が凄いのかと言うと、この漫画は作者自身の体験がベースとなっているんです。話はフィクションですが、実際は筒井が日本の「表現規制」の実態を告発しているようなものです。

 

STUDIO221 ←ここは筒井哲也の公式ホームページです。時間のある方は、トップにある「長崎県有害図書類指定問題について」を一読してみてください。

そこに書いてあるのは、自身のホラー作品『マンホール』が、平成21年に長崎県によって「有害図書類」に指定された、という内容です。筒井はこの有害指定の後5年間この事実を認知しておらず、最近になってやっと知り、有害指定への抗議行動に出たようです。筒井は自身のHPでこう述べます。

「マンホール」には一部に暴力・恐怖表現とも解釈し得る描写が存在しますが、決してそれは有害とまで非難されるものではないと確信しております。

長崎県春画を有害指定していたことを受けて)

 この決定などは極めて不可解で、長崎県の大衆文化に対しての無理解と、不寛容さを表しているだけでなく、これは憲法で保障されている 「表現の自由」に対する重大な侵害行為と考えます。

自身の作品が、ある自治体によって「有害図書類」に指定された。このことが表現の自由を論じた作品『有害都市』の新連載と関連していることは、おそらく間違いないでしょう。主人公の漫画家に、自分の思いを託している部分があるかもしれない。

筒井哲也は、自身の体験の当事者として『有害都市』を描いているんですね。それだけで面白いし一見の価値がある。これからも注目したいと思います。

 

ただ『有害都市』には、個人的に一つだけどうしても気に入らないところがあります…。表現規制を進める「有識者」側の人たちをステレオタイプな「悪」として描き、それに抗う「表現者」たちを人格者にして「善」として描いてしまっているところです。この描き方は小林よしのりみたいでちょっとダサい。「相手は間違っていてこっちが正しいんですよ」っていう押し付け、これこそが筒井が否定したい構図のはずです。一方的な価値観の強要を拒否して、善悪の判断を個々の読者に委ねたいはずです。筒井がそれをやってしまっている感が否めない。

これは内田樹の受け売りなのですが、誰かの間違った行動を批判して止めたいとき、「おまえは邪悪である」「おまえは間違っているのだ」という指摘はあまり説得力を持ちません。それより「あなたはこういう論理で、こういう理由ゆえにこういう行動を取っているのですね」と冷静に相手の行動を決定している合理性を白日のもとに晒してやるほうが有効であります。「有識者」たちの思う表現規制の正当性を客観的に分析してやって、それを読者に見せるだけでいいのでは、と僕は思います。

まあ作者が好きなように描くのもまた「表現の自由」なんでOKですけどね。筒井がこういう「偏った」描き方をしても、読者の僕がそれを鵜呑みにするわけじゃない。作品の内容は自由で、あくまで判断するのは読者。僕個人の感想でしかありません。そして読んだ後に感想を言うのも僕の表現の自由

 

本当は表現の自由や規制の是非についても書きたいのですが、ここでは立ち入りません。あくまで漫画が面白いって話です。

ぜひ筒井哲也を読んでみて下さい。中でも『予告犯』は本当におすすめです。これに関しては文句のつけようがない、五つ星の傑作です。